マコちゃん⑦
店に着くと、店内はすでに多くの客で賑わってた。今やそーみー亭は繁盛店だ。コツラサービスノ味噌ガムデス。ゴ来店有リ難ウゴザマシタ。キャハハ。何これー。味噌ガムだって。おもしろーい。青春カップルと入れ違い様、自動で開いた扉の先で、ゴリゴリの片言を話す女の店員が待ち構えてた。

「イラシャセ。4名様デスナ。テーブル席デヨロシデスカ。」

3名よ。教祖と話がしたいんだけど。

「キョウソ!?」

いるんでしょ?教祖を出して。早く出しなさい!

「キュウリノコトデスカ?」

とぼけないで!

厨房の方から、全身白尽くめの中年男性がこっちに向かって近づいてきた。どうかなさいましたか。男はひとまず気遣う素振りを見せた後、困った顔で私たちを見回した。その時の一瞬の眼光の鋭さを私は見逃さなかった。私は内心びくびくしながらも、男を睨みつけてこう言い放った。

あなたが教祖ね!?いったいマコちゃんに何をしたッ!?

何を言ってるんだ。この子は。男は怪訝な顔つきで、怒りと恐怖に震える私にこう続けた。他のお客様のご迷惑になります。お帰り下さい。私は声を振り絞る。

ソーミー教はもう終わりよ!こんな店潰れちゃえばいいんだわッ!

男の顔は益々険しく、出て行かないなら警察を呼びますよ。そう言って片言女に指示を出した。見兼ねたマコちゃんママが私を制し男に歩み寄る。そして、突如男に向かって包丁を振りかざした。予想外の出来事に男は尻餅をつき、大声で助けを求めた。その瞬間、店内にいた従業員や客たちが慌て出し、ソーミー亭は騒然。鍋やどんぶりがひっくり返り、床やテーブルは麺やスープでぐっちゃぐちゃ。ただでさえ味噌一色だった店内が、お味噌のお祭り会場と化した。

混乱に乗じて、ノリのドロップキックが炸裂する。サキが出入り口を封鎖する。私は教団の証拠を得るため厨房を目指す。数人の男たちに取り囲まれ、羽交い締めにされるノリ。そこにサキが割って入る。地味で小柄な女子高生に、大の男が次々投げられていく。

激しい揉み合いの中、なんとか厨房まで辿り着いた私は、内部を見渡し、急いで証拠になりそうな物を探す。巨大な冷蔵庫の扉を開けて中を覗くと、食材の他に、大量の味噌が詰まった容器を発見した。この味噌の成分を調べれば何か分かるかもしれない。そう思った私は、容器を小脇に抱えて、立ち上がろうとした。その時だった。駆けつけた警官らによって私たち4人はあえなく逮捕。入店から僅か15分の出来事だった。

店内にあったラジオからは、誰がリクエストしたのか中島みゆきの『世情』が流れる。野良犬でも扱うようにパトカーに押し込められ、ドラマさながらに連行される私たち。沿道では、シュプレヒコールの引き波を見るように、臆病な猫が目を丸くする。髪に絡まったままの麺。パンツにまで染み込んだ味噌の汁。罪を犯したのは私たちってことらしいけど、こっちとしては味噌に犯された気分だった。

「あんたらいったいあの店と何があったって言うんだいええ!?」
「まあそれは署でゆっくり聞かせてもらうとしてだなあ、とにかく車内が味噌まみれだよう!ったくう。」

トラディショナルな警官が怒鳴る。

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